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 現在、日本では子供の受ける教育や進学率が親の所得差に影響され、「教育格差」に繋がるという問題が生じている。東京大学大学院教授金子元久氏の調査によると、親の所得によって高校卒業後の進学先に大きな影響があることが分かっている。低収入の家庭の子供は親の経済的理由で将来への選択肢が狭まってしまっている。中には成績が優秀にも関わらず経済的理由で進学出来ない子供もいる。高卒以下の学歴では社会に出る道が狭まっている現代において所得格差問題が投げかけているのは、中堅・底辺層が固定してしまい基礎学力が低いまま放置され、将来展望も描けずにいることである。グローバリゼーションの時代にこうした傾向が広がったのでは、低技能な労働者の比重が高まり、日本の競争力は低下し、国全体の衰退を招いてしまう。というのも、OECD(国際経済開発機構)によると、成長における問題は、下位中間層及び貧困世帯とそれ以外の社会層との格差である。中でも重要なのは教育で、格差が成長を損なう主な要因は貧困層の教育投資不足である。格差が経済成長に影響を及ぼす主要なメカニズムとは、貧しい社会経済的背景を持つ子どもの教育機会が損なわれ、社会的流動性の低下をもたらし、技能開発を阻害するというものである。また低学歴の両親を持つ家庭の個人は所得格差が広がるにつれ、教育成果が悪化しがちである。これに対し、中学歴高学歴の親を持つ家庭の個人は経済格差における影響は殆ど受けない。

 

 これらの問題を解決する方法として考えられるものの一つとして教育バウチャーがある。この教育バウチャーとは私立学校の学費など、学校教育に使用目的を限定した「クーポン」を子供や保護者に直接支給することで、子供が私立学校に通う家庭の学費負担を軽減するとともに、学校選択の幅を広げることで、学校間の競争により学校教育の質全体を引き上げようという私学補助金政策である。これは元々アメリカで1990年代に導入されたものであり、近年日本でも、学校教育だけでなく塾や文化活動、スポーツ等学校外教育にもNPO法人などによって一部で導入されている。また、安倍政権でも2006年教育バウチャーを国の制度として導入されることが検討された。ここでの教育バウチャーは、所得などに関係なく一律に子どもをもつ家庭にバウチャーを配布することが前提とされている。教育バウチャーのメリットとしては大きく以下の三つが挙げられる。一つ目には、国公私立学校を問わず適用することで、家庭の授業料負担などの公私格差が解消されること、二つ目には国公私立学校を問わず自由に保護者や子どもが学校を選択することができるようになること、三つ目には集まったバウチャーの数に応じて学校運営費が交付されるので、学校はより多くの子どもを集めるため努力し教育の質が上がることなどがある。つまり教育バウチャー制度は、選択の自由、自由競争による質の向上という規制緩和の考え方が背景にある。このように格差の是正実現の切り札となりうるバウチャーだが、このバウチャーを取り入れるか否かで論争が起こっている。というのも、一部の人気校だけに予算が集中し学校間の格差が拡大する、保護者や子どもに迎合する学校が増えて逆に教育が荒廃する、地理的に学校選択が困難な地方部と自由に学校選択できる都市部の教育格差が広がるなどのデメリットもあるからである。また、教育バウチャーは世界各国で行われているものの、その定義や国家的背景は諸外国によって様々であって日本に当てはまるとは限らず、バウチャーの実施例があまりにも少ないためその成果が確証されていない。これらの危険性を踏まえ、現在日本では、バウチャーに対して慎重論がとられている。

 

 今回のディスカッションではこの教育バウチャーがいかに現在の日本が抱える経済格差が引き起こす教育格差の問題に貢献しうるか、またその問題点について考えていこうと思う。

 

 

 

 

第一討論 

教育バウチャーの経済格差が生み出す

教育格差への役割とその貢献度の可能性について

 

第一討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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