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 就職率が4年連続で上昇している一方、3年以内の離職率には大きな改善はなく、横ばい状態が続いている。さらに深刻なのは、就職活動を理由に自殺をする大学生の増加である。自殺未遂者や精神的負担を感じている学生の数は統計によって明らかにすることはできないが、その数はとても多いであろうことは想像に難くない。景気回復によって就職率が上がったと話題になっても、就職活動が大学生にとって大変な重荷となっていることに変わりはない。

 

 そんななか、2011年に大学設置基準に加筆が成され、大学においてキャリア教育が義務付けられた。就職難の問題や離職率の高さをうけ、教育課程での働くことへの学習指導が大学において十分でないという結論によるものであろう。各大学は相談所や資料室を設置するだけでなく、カリキュラムに就労支援を取りこむ工夫を迫られ、遂行している。受験生も就職率や対策の内容で大学を選ぶ傾向が高まり、大学のアピールポイントでもあるのがキャリア教育である。

 

 しかし、就職率という大学卒業時の数値のみに終始するキャリア教育では、その元々の社会的要請に応えるものにはならない。なぜなら、働くことへの不安は、就職活動の段階にとどまるものではなく、むしろリストラや転職、子育てや介護との両立、そして年金制度と老後の生活など、人生のあらゆる段階において生じるものであるからだ。つまり、キャリア教育への社会的要請とは、多様な社会問題の解決困難な状況と呼応するものであり、未だ解決策の定まらない様々な問題を抱えながら働き、生きる術を模索することなのである。就職率に終始するキャリア教育ではない、キャリア教育の開発を内包するキャリア教育が行われる必要がある。

 

 この議論では、まず学生にとって就職活動がどのような課題としてのしかかっているのかをアンケート結果の分析を通して言語化し共有する。そして学生の就職力向上に終始するキャリア教育の問題点を考えていきたい。そして、それを反映させる形で、長期にキャリアを考え不安定な現実に対応する力を専門性を高める大学という機関で行うことの可能性を検討していきたい。

 

 

第一討論 

第一討論

大学教育におけるキャリア教育の可能性

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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