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 高齢世代になって以降も安定した生活を送るという生活保障は極めて重要なものであるが、高齢世代では格差が大きいことが知られている。例えばジニ係数の水準は65歳以上の高齢世代では現役世代に比べて高くなっている。もっともジニ係数の水準は現役世代で上昇傾向にあるのに対し、高齢世代では減少傾向にある点には注意が必要である。しかしながら、それは高齢世代内における格差が重要な課題ではないことを意味するわけではない。

 

 まず、かつては高齢者のいる世帯といえば祖父母・親・子からなる三世代世帯であったが、現在では高齢夫婦のみの世帯や高齢単身世帯が増加している。そうしたなかで高齢単身世帯とくに高齢女性世帯の所得水準がそのほかの世帯に比べて大きく劣っている。これは従来の社会保障が、子ども世帯との同居を通じて老後の生活保障がなされるという世代間扶養を前提としてきたため、家族の形が多様化する中で従来前提としてきた家族像から漏れ出ている高齢世代の生活保障が十分になされていないということを背景にしている。

 

 また、現在の現役世代の中で広がる雇用格差を考えると、老後の生活の原資である年金の受給額でも今後大きな格差が生じることが予想される。非正規雇用労働者の厚生年金の加入率は2010年時点で、男性で61.3%、女性44.9%となっており、契約社員・嘱託社員・派遣労働者の場合は比較的高いものの、パートタイム労働者では男性でわずか35.6%、女性で33.2%である。さらに国民年金についても非正規雇用労働者では未納率が高いという現状がある。現在の年金制度は従来からの雇用形態を前提としており、非正規雇用の増加といった事態に十分には対応できていない。

 

 家族の形や雇用形態の変化といったライフコースの変容の結果、従来の社会保障制度の前提から漏れ出るひとびとが生まれており、十分な生活保障を受けられない可能性があるのである。そこで本討論会ではこのことに焦点を当てる。そのために、既存の高齢世代に対する社会保障制度がどのようなライフコースを暗黙のうちに想定し、ライフコースの変容に伴ってそれがどのように機能しなくなっているのかを明らかにしたうえで、高齢世代に対する社会保障制度のあり方を考えていく。その際には、高齢世代の生活の最大の原資である年金制度を中心に据えることはもちろんであるが、それ以外の社会保障の仕組みにも目配りをしていきたい。とりわけ、従来の高齢世代の社会保障制度が世代間扶養という共助と補完的に成り立っていたことからも明らかなように、社会保障は自助・共助・公助が補完的になって機能するものである。また、社会保障費の増大が財政面で限界にきているという側面からも制度的な枠組みを無制限に充実させることはできない。したがって、単に国の提供する制度的枠組みのみを考えるにとどまらず、どの部分を自助・共助・公助でそれぞれ賄うべきなのかを検討し、自助・共助・公助のあり方をできるだけ包括的に考えていくこととする。

 

第三討論 

ライフコースの変容と

高齢者への社会保障

第三討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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