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 学力の「違い」が「学力格差」として問題になるのは、それがある観点から是正すべき対象になるときである。日本のような高度に発展した資本主義社会においては、拡大する子どもたちの間の学力格差は、やがて就労や住居や社会活動等の諸領域における生活機会の格差へと結びついていく。学校において、十分な基礎学力を獲得できない子どもたちは、望んでも就職や結婚ができず、なおかつ十分な社会的生活を享受できず、社会的排除の対象になるかもしれないリスクを背負うことになる。日本社会を真にインクルーシブなものへと変容させていくためには、学力格差の克服は必須である。

 

 学力格差を考えていく際、学力の形成のプロセスを考えていかなければならないだろう。学力形成にあたっては、個人の資質・能力や、家族、学校、地域等の諸要因が複雑に絡まり合って学力が形成され、それが子どもたちの間で学力格差が導き出されている。それらの関係を考察していくことはもちろん大切だが、さらに、それらを取り巻く社会構造に注目していかなければならないだろう。というのも子どもを取り巻く教育環境(地域・学校など)は社会構造に由来しているからである。さらに現在の社会では、個人の人生の選択肢も広がり、その人の努力次第では目標実現が可能になり、「頑張れば頑張るほど、リターンが返ってくる」ということになれば、勉強を頑張る意欲につながる。他方、その選択の実現性は不確実なものになり、たとえ能力の高い人であっても「どんなに頑張っても意味がない」と諦めてしまうものも出てくるかもしれない。これは教育学者の刈谷剛彦の言葉を借りると「意欲格差」につながり、学力の格差に大きく影響し得るのである。つまり、現在の社会構造が学力に対する意識に影響を与えているということである。このように、学力形成を社会のあり方や仕組みから見ていくことは大切な視点である。

 

 今回の議論では、学力形成のプロセスを考え、そこから生じる学力格差をいかに克服していくかを考えていきたい。そこで注目したいのが、その学力格差を克服していくのに最近議論されているSocial capitalという概念である。これは「社会関係資本」と訳され、平たく言えば、「つながり」に近い概念である。2007年以降に導入された全国学力・学習調査では、秋田・福井・富山といった日本海側の「田舎」の県が上位を占めている。2014年で見てもこれらの県が上位を占めていることが文科省の調査から出ている。一方で、大都市圏の大阪は例年下位の位置にいる。さらに都道府県別の平均所得を見ると、上位は都市圏であり、上記の田舎の県はさほど高くなく、学力の差は経済的な原因ではないことがわかる(全く関係がないというわけではないが)。そこで挙がってくるのが、「つながり」の強さが学力の高さと結びついているという仮説である。

 

Social capitalが学力の高さにどのように影響しているのか、その関係をみていくことで、学力格差という課題の緩和の一歩に近づけていきたい。

 

第二討論 

「つながり」が学力を上げる?

第二討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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