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医療の進歩によって従来は救えなかった生命も救うことができるようになった。しかし一方では患者の生命の人工的な延命という人間の尊厳に関わる新しい問題が生み出された。そこでは治療方法の選択に関わる問題について意思決定が重要な要素として論じられ、自己の身体に関わる意思決定は自ら決定できるという自己決定の論点からの議論も多く行われている。

 

しかし、延命医療の発達につれて、患者の中には、生命維持装置をつけられて自由を失うよりも、生命維持装置をはずして、寿命がきたら自然に死を迎えたいと願う者が現れるようになった。患者が自己の病状について説明を十分に受けられる権利や、自己の治療を選択できる権利が求められるようになった。「患者の自己決定権」の一種として安楽死及び尊厳死も当然に許容されるべきであるとして、患者の死の希望を医師がかなえるといった、医師による「患者の自殺幇助」あるいは「患者の意思に基づく承諾殺人」を適法と認めることにつながる可能性がある。さらに、刑法202条において嘱託・承諾殺人ならびに自殺幇助を処罰する規定をおいているため、刑法における安楽死・尊厳死の法的許容の範囲、患者の死ぬ権利、医師による自殺幇助がどの程度認められるべきであるかなどの問題となっている。

 

また、安楽死・尊厳死論は、それが必要とされる社会的事情を踏まるならば、容易に解答を見出すことの出来ない問題である。生命や自己決定についての価値観の多様性、もしくは安楽死・尊厳死の概念の多義性に由来するもので、その上で刑法的介入をいかに差し控えさせるかという点に問題の核心がある。

 

今回のディスカッションでは、安楽死・尊厳死論の今後の方向性を見定めるにあたって、横浜地裁判決と安楽死問題の社会的認識も高いオランダにおいて出された判決を例に考察していくことを一つの手がかりとし て、個人の視点と法治社会の視点の違いを見ていく。そこで個人(患者)の合意と法治社会の合意に至るには今 後どのような医療の在り方が必要かを考える足掛かりにしていきたい。 

第三討論 

安楽死における法と倫理

第三討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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