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多文化社会

グローバル化が進行していると言われて久しい。一般にこの言葉は「人類の活動とその影響が、国家や地域

の境界を超え、地球規模で一体化していく現象」と定義され、多くの業界に強大な影響を及ぼしている。こ のことから、各企業・大学は国際ビジネスへの進出や留学システムの整備、また留学生の積極的受け入れなど の対応を迫られている。

 

この現象は医療の分野でも進行している。他国の医療を受診するメディカル・ツーリズムと呼ばれる新たな 医療サービスが注目されているほか、日本でも EPA(経済連携協定)に基づき途上国との医療人材交流が進んでいる。このような現象は、個々人の生命に密接に関係する医療というインフラにも大きな影響与えると考 えられている。

 

その一つとしては、産業化の進展があげられる。医療は人々の生命に直結する重要なインフラの一つであるため、公共性を保つために日本では株式会社の参入が厳しく制限されるなどの厳しい規制が課されている。しかし国とは違って規制をすることが難しい国際社会では、メディカル・ツーリズムを利用して先進国の富裕層患者をターゲットとした商業的な医療が行われるようになり、特にタイでは所得によって受けられる医療レベルが異なる医療格差が発生している。

 

もう一つのグローバル化の影響として、途上国での医療スタッフの流失が挙げられる。EPAによる医療人材の交流は、途上国の医療従事者にとっては就業地の選択を可能にし、より高い収入や安全な労働環境・治安が見込める先進国での勤務を志向させている。事実イギリスで働くフィリピン人看護師によると両国の所得には四倍もの違いがあり、国連人口基金(UNFPA)の報告によると「先進国で働きたい」と回答した南アフリカの医療スタッフは 58%に及び、アフリカのサハラ以南では 130 万人の医療人材不足が生じているという。途上国の医療従事者が先進国に流入し、その結果、途上国医療の“空洞化”が発生してしまっているのだ。

 

以上概観してきた問題は、これまで規制によって公共性が担保されてきた医療がグローバリゼーションに伴 ってその規制が弱体化し、市場経済の色彩が強くなった結果表出したものだということができる。

 

ただこの産業化がプラスの側面を持っていることも事実である。他国よりも良質なサービスを提供するために技術の向上が行われたほか、自国の資源を使用したリハビリテーション施設を設置するなど、入院患者の環境向上も期待されている。また医療人材の交流によって、先進国で発生している医療スタッフ不足の穴埋めや途上国スタッフのスキルアップが期待されており、途上国開発支援の一つの手段となっている。 このような変化は我々一人一人の医療の選択に大きく影響する。先ほどから述べているように、医療は生命に直結する極めて重要なインフラである。しかしグローバル化が規制を壊して市場経済のような考え方やシステ ムが流入した結果、その本来持っていた極めて重要な役割が弱体している。グローバリゼーションは巨大な力 を持ち、それにあらがうことはほぼ不可能であって、その影響が“グローバル・スタンダード”として各国に 及ぶのは時間の問題である。またこの現象にはメリットもあり、それを享受することも大切だという考え方も ある。だからといってこの医療格差が生じるような状態を放置すれば、貧困国の国力の更なる衰退につながり かねない。そこでこのグローバル化した医療の中でそのメリットを最大化しながら、医療格差を是正する仕組 みを考えることが必要である。

 

理想の「あるべき医療」象を共有することからまず本ディスカッションを始める。その上で、各患者が医療を 主体的に選択するために必要な環境整備を、医療のグローバル化の大きな特徴の一つである産業化が顕著に進 行しているタイやその影響を受けているフィリピンを事例として考察する。 

 

 

第二討論 

グローバル化する医療

―産業化・医療格差・生存権―

第二討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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