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資源の少ない日本において科学技術を開発し続けることは、激化する国際競争の中で日本が勝ち残るために欠かせない。平成7年から施行された科学技術基本法第3 条に「国は、科学技術の振興に関する総合的な施策 を策定し、及びこれを実施する責務を有する」とあることからも、政府が科学技術開発を重要視していることが伺える。そして同時に同法第4条では、地方自治体も地域に見合った科学術開発を促進させる責務があることが記されている。

 

「責務」という言葉を見ると自治体の負担になるような印象を抱きがちだが、必ずしも悪いことだけではない。地方分権が進み、三位一体改革で自由に自治体が使うことのできる資金が増えたことで、地域に見合った科学技術開発を促進させることができるようになった。科学技術開発が成功すれば生産-流通-販売による経済発展だけでなく、地域の名前も広まり社会的な魅力も増す。科学技術開発は企業誘致と同様に地域振興を図ることができるのだ。

 

しかし科学技術開発による地域振興は企業誘致によるもの等とは決定的に異なる点がある。それは計画・成果が不透明であるという点だ。企業誘致などの施策の場合、他の地域で行われたもの等を参考に、ある程度の 計画・成果の予想を立てることができる。一方科学技術開発、特に先端技術開発への投資に関しては、未だ開発されていないものへの投資であるため、他の地域で行われたもの等を参考にすることができず、どれくらいの投資が必要であるか、どのような計画が適切であるか、どれくらいの成果が生まれるか等を判断することが難しい。

 

このような他の施策を参考にできず十分な知識と経験が蓄積されていないという性質を持つ科学技術開発には、予測できない問題が生じるかもしれないというリスクが内在する。3.11の例を挙げれば、原子力発電所は地震や津波などに耐久できるような設計で建設されたはずだが、3.11では予測を上回り甚大な被害を出して しまった。原子力発電所は世界各地で建設されているが、世界的にまだ普及していない事業、あるいは世界初の事業ではなおさら不確定要素が多い。自治体はこうしたリスクと地域振興を見積もった上で科学技術開発に踏み切るか判断しなければならない。

 

また科学技術開発施策は住民との係わり合いも問題となる。たしかに自治体は団体自治として権限と責任を持って地域の行政を処理するが、住民自治の理念に則り政治や行政への住民の参加・参画が十分に行われなけ れば、住民のための地方行政の実現は困難である。そのため住民は自治体による施策を理解し評価をすることが必要で、万が一自治体による施策が住民の利益よりも被害を生むようであれば、その施策に待ったをかける必要がある。

 

しかし住民が自治体の科学技術開発施策について完全に理解し、評価するのは難しい。それは施策が実際にどのような結果を引き起こすかは誰にも分からない上に、多くの住民は専門的な知識を持っていないため、自治体と対等な位置ですら理解・評価することはできないからである。また、このような住民と自治体の情報量・知識量の差から、住民が自治体の施策に反対し中止にさせることも難しい。

 

このような状況の中で住民はどのように科学技術開発施策を評価すればよいのであろうか。そしてもしその施策に反対する必要がある場合、どのような手法で主張すればよいのか。先ほど述べたとおり、科学技術開発は地域の振興を促す重要な手段の一つであり、成功すればさまざまな地域の問題を解決できる。そのため頭ごなしに施策に反対するのではなく、適切な評価を行う必要がある。科学技術開発の性質を考えた上で、その際とるべき住民の立場、そして自治体との関わり方というものを考えていきたい。

 

第二討論 

科学技術による地域振興

第二討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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