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現在、世界は急速にグローバル化し、国境をまたいだ人の移動がかつてない程に増大している。一国の中においても、異なる文化的な背景をもつ人々が接触するようになり、日常生活で話される言語や人々の行動、そして物事の捉え方や価値観も多様化するようになった。このように一国の中においても、異なる文化的な背景を有する人々の接触が珍しくなくなってきている今、文化的差異を背景とした文化摩擦が生じるようになってきた。

 

日本は「一国家一文化」と称されていたが、近年、そうはいかなくなってきている。1990年代以降、経済・社会的状況の変化や出入国管理政策の変化とともに、いわゆるニューカマーと呼ばれる外国人住民が急増した。日本に住む外国人住民の数は増えつづけ、平成25年末現在における在留外国人数は206万6,445人で、我が国総人口(1億2,729万人)の1.62パーセントを占めている。(法務省)このように、異なる文化的背景を有する人との接触が増加してきている日本においても、文化的差異を背景にした様々な問題が生じている。外国人であることを理由にアパートへの入居、公衆浴場での入浴や理容店において理容サービスの提供を拒否される等の問題は以前から叫ばれている。最近では、都内で行われたデモにおいて、特定の国籍の外国人を排斥する趣旨の言動が公然と行われていることがマスコミによってヘイトスピーチであるとして取り上げられている状況にある。

 

一国内の中に様々な文化圏をもつ人々同士が共存していくために、「多文化主義」という概念がしばしば語られるようになった。多文化主義は、マイノリティの文化を単一の有力な文化の下に統合していく同化主義とは異なる。多様な文化を尊重し、それぞれの独自性を維持しつつ複数の文化の共存を図ろうという理念である。 異文化の共存を目指す理想的なものであると言えるのかもしれない。

 

しかしながら、多文化主義には問題点もある。多文化主義の下、各文化の独自性が積極的に主張される中で、 文化的な差異が本質的なものとみなされると、「結局は異なるものだから仕方がない」と互いに理解し得ないことが正当化され、共生が実現し得ないかもしれない。異文化を尊重するという建前だけでは、互いに尊重はするけれど、互いのことは理解しないという共生とは程遠い状況を生んでしまいかねないのである。ヨーロッパでは多くの移民を受け入れており、多文化主義を掲げる国も複数存在する。しかしながら、2010 年にメルケル首相は、ドイツの多文化主義は「完全に失敗した」と述べた。また、それに続くように、イギリスのキャメロン首相も2011年に「国としての多文化主義は失敗した」という旨の発言をしている 。

 

日本では多文化主義は正式には採用されていない。しかし、ニューカマーの台頭によって1990年代以降日本社会が多民族・多文化的であることが急速に可視化した。そこで日本では、「多文化共生」が謳われるようになった。少子高齢化の人口減少を背景とした経済成長の鈍化により移民の受け入れが以前よりも積極的に唱えられるようになり、今後ますます文化的背景の異なる民族との接触が予想される。2020年にある東京オリ ンピックを機に、日本は世界から注目され、外国人が日本への移住を考える可能性もあるかもしれない。日本はもはや「一国一文化」の枠にとどまらず、「多文化共生」を求められている状況にある。

 

事例として日本で暮らす移民が抱える問題や移民に対する取り組みを挙げ、どのようにして多文化共生を実現できるかを議論する。 

 

第三討論 

「多文化共生」を問う

第三討論

過去ディスカッション

ここでは第36回国際学生シンポジウムで使用したディスカッションテーマを公開しています。

 

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